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ベジタリアン海外記事
いろいろ
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夏目漱石「明暗」の一部を掲載。

菜食になるという議論をする際おいしいまずいという道に入り込むことが多々ある。

この内容は直接菜食に関わるものではないがここに出てくる小林の意見/説教を私は高く評価する。

普段なにげなく通り過ごしている、あえて立ち止まって考えてみようとしない、

考えたくないから知らん振りをしているある場所をこの小林は教えてくれる。

少なくとも私はそれをあっさり認めることによって心のもやが晴れた。

 

   百五十四
百五十四  目的の温泉場へ立つ前の津田(結婚してまもない若い会社員)は、既定されたプログラムの順序として、まず小林に会わなければならなかった。約束の日が来た時、お延(津田の妻)から入用の金を受け取った彼は笑いながら細君を見た。 「何だか惜しいな、あい...
   百五十五
百五十五  小林と会見の場所は、東京で一番にぎやかな大通りの中ほどを、ちょっと横へ切れた所にあった.向こうからうちへ誘いに寄ってもらう不愉快を避けるため、またこっちで彼の下宿を訪ねてやる面倒を省くため、津田は時間をきめてそこで彼に落ち合う手順にした...
   百五十六
百五十六  小林は眼を上げてちょっと入り口の方を見たが、すぐその眼を新聞の上に落してしまった。津田は仕方なしに無言のまま、彼のすわっている食卓の傍まで近寄って行ってこっちから声をかけた。 「失敬。少し遅くなったよ。よっぽど待たしたかね」  小林は...
   百五十七
百五十七 「君のような敏感者から見たら、僕ごとき鈍者は、あらゆる点で軽蔑に値しているかも知れない。僕もそれは承知している、軽蔑されても仕方がないと思っている。けれども僕には僕でまた相当の言い草があるんだ。僕の鈍は必ずしも天賦の能力に原因しているとは限...
   百五十八
百五十八  しかし小林の説法にはまだあとがあった。津田の様子を見すました彼は突然思いがけないところへ舞い戻って来た。それは会見の最初にちょっと二人の間に点綴(てんてつ)されながら、前後の勢いですぐどこかへ流されてしまった問題にほかならなかった。 「僕の...
   百五十九
百五十九  小林は言葉を継ぐ前に、洋盃(コップ)を下へ置いて、まず室内を見渡した。女伴(おんなづ)れの客のうち、一組の相手は洗指盆(フィンガーボール)の中へ入れた果物を食ったあとの手を、袂(たもと)から出した美くしい手帛(ハンカチ)で拭いていた。彼の筋向こうに...
   百六十
百六十  小林はうまく津田を釣り寄せた。それと知った津田は考えがあるので、小林にわざと釣り寄せられた。ふたりはとうとうきわどいところへ入り込まなければならなくなった。 「たとえばだね」と彼が言い出した。「君はあの清子さんという女に熱中していたろう。ひ...
   百六十一
百六十一   小林は受け取ったものを、赤裸のまま無雑作に背広の隠袋(ポケット)の中へ投げ込んだ。彼の所作が平淡であったごとく、彼の礼の言い方も横着であった。 「サンクス。いかんとなれば、僕に返す手段のないことを、また返す意志のないことを、君は最初から軽...
   百六十二
百六十二  それがさっき大通りの角で、小林と立ち談(ばなし)をしていた長髪の青年であるということに気の付いた時、津田はさらに驚かされた。けれどもその驚きのうちには、暗にこの男を待ち受けていた期待もまじっていた。明らさまな津田の感じを言えば、こんな人がこ...
   百六十三
百六十三 二人は津田を差し置いて、しきりに絵画の話をした。時々耳にする三角派*とか未来派*とかいう奇怪な名称のほかに、彼は今までかつて聴いたことのないような片仮名をいくつか聴かされた。  (*三角派:立体派。二十世紀の初頭、ピカソらを中心にフランスにおこ...
[1] [2] 

引用 

「明暗」 夏目漱石

[日本の文学14  夏目漱石(三)/中央公論社]

 

Light and Darkness

an unfinished novel by Sōeske Natsume

TRANSLATED FROM THE JAPANESE, WITH A CRITICAL ESSAY

BY V.H.VIGLIELMO

CHARLES E. TUTTLE COMPANY

SUIDO 1-CHOME, 2-6, BUNKYO-KU, TOKYO

 

 

  
  
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